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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)555号 判決

控訴人 六島好雄

被控訴人 富国開発株式会社

右代表者代表取締役 阪東亮一

右訴訟代理人弁護士 大石一二

同 大塚忠重

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

1. 控訴人

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人は控訴人に対し、金三八万八〇〇〇円、及びこれに対する昭和五一年一〇月二九日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2. 被控訴人

主文と同旨。

二、当事者の主張

次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する(但し、原判決一枚目裏一一行目の「六月一日」を「六月一一日」と、三枚目表一一行目の「昭和五〇年」を「昭和五一年」と各改める)。

(控訴人)

1. 本件契約は土地の売買だけでなく、被控訴人が立木の伐採、植林、地下資源の開発などを行い、これによる収益を控訴人ら会員に分配する約束であった。

2. ところが被控訴人は当初からこのような約束を履行する意思がなく、またその履行も不可能であったのに、そうではないように控訴人ら約二〇〇〇人を欺罔し錯誤におとし入れて本件と同様の契約を締結させたものである。

3. すなわち被控訴人は国土利用計画法に違反して控訴人ら多数人に土地を不正販売し、これら土地上の立木を伐採売却しながらその配当金を支払わず、また植林のため国からの補助金七五三三万円の決定を受けているのにその事業を行わず、休眠会社となっている。更に地下資源開発の基礎となる試掘権設定許可もされていない。

4. したがって、本件契約は民法九五条により無効であり、そうでなくとも同法九六条によりこれを取消す。

(被控訴人)

1. 控訴人の錯誤、詐欺の主張は争う。

2. 本件土地売買契約は国土利用計画法による届出の有無にかかわらず有効であり、その登記手続も完了しているから、控訴人は付属の会員券の実体如何にかかわらず右契約を解除することはできない。なおこれら会員券は前記法律の関係で昭和五〇年一〇月ころ付加したものであり、この点の従前の主張は訂正する。

3. なおホテル会員券は被控訴人が設立するハイランド・グリーンクラブが将来所有提携するホテルを会員において有利に利用できるという内容のもので、昭和五一年にはその一環として岐阜県下呂町と神戸市有馬町に右ホテルを開設している。また森林会員券は会員が同クラブを通じ地元森林管理委託組合に別途委任状と管理費を交付して伐採植林等を委託し、収益が挙がれば配当をうけるというものであって、右組合の業務として実行可能のものである。更に控訴人のいう試掘権についてもすでに許可済みである。

三、証拠〈省略〉

理由

一、控訴人被控訴人間の本件契約の内容、その成立及びその後の経過等については、次に付加訂正するほかは、原判決五枚目表七行目から七枚目裏一一行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。

原判決五枚目表七行目の「六月一日」を「六月一一日」と改め、同七、八行目の「及びホテル会員券、森林会員券等」を削り、同一一、一二行目の「甲第六号証の一」のあとに「控訴本人の当審供述」を加え、同裏一二行目から六枚目表一行目までを削り、同二行目の「原告は」から同六、七行目の「同第一二号証」までを「成立に争いのない甲第一号証、同第三号証の一ないし七(六は一ないし三)、同第四号証の一ないし四(三は一、二、なお二は控訴本人の原審供述により成立を認める)、同第九ないし第一五号証」と、改め、同裏一行目の「国土利用計画法」のあとに「二三条」を加え、七枚目表一行目の「材採」を「伐採」と改め、同四行目の「収益を」の次に「買受人らが別途組織しまたは加入する団体により」を加える。

以上に成立に争いのない乙第二号証及び控訴人の原当審供述をあわせると、控訴人は当時被控訴人の営業部次長であって、昭和五〇年九月二六日本件土地の所有権移転登記をうけたこと、本件土地等一団の土地の売買は本来その地上樹木の伐採植林等開発による買受人の利殖を眼目とするものであって、引用部分掲記の契約書の書替えも国土利用計画法に対する配慮からなされたものであり、その実質的内容は従前と殆んど変らず、ホテル利用権等はむしろ特典的に付加されたものであること、そして当初の土地売買契約を解消することなく右書替えに応じた控訴人らの場合、ホテル、森林、地下資源各会員券が交付されることになっていたことが肯認される。

二、控訴人は本件土地売買は国土利用計画法二三条に反し無効であると主張するところ、右売買について同条所定の権利移転等の届出がなされていないことは引用部分認定のとおりである。

しかし右届出については、規制区域内の土地の売買の許可におけるような効力に関する規定(同法一四条三項)はないこと、同法一四条の許可は相当範囲にわたる土地の投機的集中取引や地価の急激な上昇、またはそのおそれがあると認められる特定の区域(同法一二条一項)に所在する土地の売買等についてのみ要求される(同法一四条一項)のに比し、同法二三条の届出は一定面積以上であればどのような土地にも要求されている(同法二三条一、二項)ところ、この両者については、同法の土地取引の規制(同法一一条)の必要性に大きい差があると解されること、また著しく適正を欠く価格による取引に対する規制方法としても、許可を要する土地売買等の場合(同法一四条三項、一六条、一九条、四六条参照)とは異なり、届出を要する土地売買等の場合には、勧告、報告、公表、その他比較的軽い刑罰(同法二四条ないし二六条、四七条)が定められているにすぎないことなどを考慮すると、同法二三条の届出は土地売買等の契約の有効要件ではなく、この届出を経ずにされた契約もそのことのためにすぐに無効となるものではないと解すべきである。

したがって控訴人の上記主張は理由がない。

三、控訴人は次に被控訴人の境界杭設置及び会員券交付の債務不履行を理由として、本件契約を解除したと主張する。

しかし、控訴人が昭和五一年七月二二日に契約解除の意思表示をしたことは本件全証拠によっても認められないところであり、次に同様解除の意思表示をしたという昭和五二年一月末ころには、本件契約の残代金一四万円の履行期が到来していたのであるから、合意解除は兎も角、右残代金の提供なしにはこれと同時履行の関係にある被控訴人の債務不履行を理由として契約を解除することは許されないものといわねばならない。のみならず控訴人の原当審供述中被控訴人に境界杭設置義務があったとの部分は前出甲第一号証に照らしてたやすく措信し難く、むしろ同号証及び従前認定事実によれば本件土地売買はその一団の土地の総合的な開発をめざすもので、各買受人において当該土地を直接使用することを目的とするものではなく、対象土地が四〇〇坪以下の場合は現地案内もしないことになっていたことが認められるのであって、その利殖目的や現地の状況等からして売買各土地の境界を現地で指示して引渡すことは考えられておらず、境界杭設置の約束もなかったこと、及び控訴人も被控訴人の幹部社員としてこれを了解していたことが窺われ、また会員券についてはこれがもともと付随的なものであるうえ、その交付方催告をしたことの主張、立証もないから、いずれにせよ控訴人の叙上主張は失当というべきである。

四、控訴人は更に本件契約について錯誤による無効または詐欺による取消しを主張する。

しかし本件契約は実質的には土地の売買であり、これが地上樹木の伐採植林等による収益の分配を主眼とすることは既述のとおりであるが、当初から被控訴人に右事業及び収益配分の意思がなくまたその実行の可能性がなかったことは、前出甲第四号証の二その他本件全証拠によっても認めることができず、これら森林及びその後付加されたホテルや地下資源計画の不備薄弱性については、当時その売込み等にあたっていた控訴人は当然知っていたものと推認されるのであって、この点で控訴人に誤信があったとは考えられないから、前記主張も採用できない。

五、よって、原判決は正当で、本件控訴は理由がないから、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒川正昭 裁判官 志水義文 井関正裕)

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